ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

2020-10-26から1日間の記事一覧

逆鱗(遙か3/望美)

何かを思案するとき、つい胸元に下げた逆鱗を触る癖がついた。 触れたからどうこうということはないが、ただ自分が白龍の逆鱗を所持していること、それによって時空の遡りが可能であること、またそれによって運命を任意に書き換えられること、それらを改めて…

大和

「…何してんの」「わっ」玄関を回り込んで庭を覗くと、五月が土まみれになっていた。「ピンポンしても無反応だし」ごめんごめん、と言って立ち上がった足下には、スコップやら苗やらが散らばっている。「勉強の気分転換に雑草でも抜こうかと…」この家の庭は…

五月

コントローラーの埃を払い、何をするともなくカーソルを動かす。「NAO」――直近のセーブデータのプレイヤーネーム。その次は「YMT」。記録や記憶は日に日に曖昧になり、今では俺と両親以外に彼らを知るものはいない。確かに存在した証が消えないよう、2つのセ…

瑞希

「寝てたね」そう指摘され、私はうなだれた。どうしてこんな日に限って、頭痛が治まらないのだろう。「薬まで飲んで隠したいみたいだったから、黙ってたけど」謝ろうとしたところで、瑞希くんはこう続ける。「でも映画と、うとうと顔と、寝顔と、寝ぼけ顔、…

家康

「明智桔梗は死にました」桜が咲きました。雪が降りました。そんな口調で言ってのけた光秀殿の視線は、最後まで僕のそれと絡むことはなかった。「あれは何という花ですか」花の名を尋ねるのは、名も知らぬひと。「クチナシと言います」いつかその花を贈って…

あかね

船岡山に登ると、視界が空と都になる。「京」と呼ばれるこの場所は、ここから見渡せる分しかない。その小さな世界に、確かに息づくものがあった。祈りはやがて深さを増して、告げる想いさえなくなってゆく。日々を生きるものたちへ、白き龍とその神子から、…

村雨

「髪、鬱陶しくないですか?」「ん?……ああ」しきりに髪に手をやるのは無意識だったらしい。ふと、いつかダリウスが前髪を切ってくれたことを思い出す。それを何気なく口にしたら、机にかじりついていた顔がこちらを向いて、あっと言う間に近づいてきた。「…

ルードハーネ

その指は意外なほど軽やかな旋律を紡ぎ出した。「前に習ってたから、少しだけね」と何でもないことのように呟く。ピンと伸びた背中。ペダルを踏むたびに煌めくブーツの飾り。気を集め、気を喚び、気を与え、気を封じる。神気ばかりと思っていた両手の中に、…

光秀

「あやつの愛は重いぞ」『愛』を語るには落ち着きすぎた口調に感じるところがあり、思わず聞き返した。「試すことでしか人の心を量れんのだろう」心を試して、得られるものと失うものは何だろう。「……光秀殿に信頼されてみせます」そう言うと、信長様は満足…

信行

その慟哭を耳にして、ああ本当に「風」は吹いているのだと思った。震える両手は酷く血色が悪く、青白い爪がぼんやりと夕闇に浮かんでいる。「僕は、」先ほどから繰り返すのはこの言葉。「僕は、」先に続く音を探るような押し殺した声。「僕は、」「僕は、」…

半兵衛

「そういえば蜻蛉丸はなぜ口移しを拒んだのですか」茶を吹き出しそうになって強かに咽せる。「蜻蛉丸、落ち着いて」「君が変なこと言うから」「半兵衛殿に憧れる女性も多いですし、その」自分には魅力がなかったのか。そう問いたいのだろうか。「……唇に触れ…

秀吉

心地よいだるさの中で、二の腕に乗った頭がもぞもぞと動き出した。「オレあの一言で今日一日食わなくてもやってけそうだわ」「……朝餉はきちんと召し上がってください」窘める声も伝わる温もりも、それはひどく甘やかでオレをおかしくさせる。二度寝の試みは…

コハク

蠱惑の森で、洋菓子についていたリボンで戯れにコハクの髪を結ったことがあった。「そんなリボン、取ってあったの?」「だって梓さんからの贈り物だもの」あなたがくれたものは何ひとつ失くさないし、誰にも渡さないよ。そう言ってコハクはリボンを髪に結び…

イサト

外に出た途端、花梨は「ひゃあ」と情けない声をあげた。「さすがに冷えるね」「これだけ積もったからな。ほら、ちゃんと前閉めないから寒いんだよ」と言って、花梨のコートの首もとの釦を留めてやる。色違いの手袋を履いた手を繋いで歩く白銀の道は、なんだ…

めぐる日々(遙か2/泰継)

「今日は何時に帰ってくる?」 「十八時頃ですかねえ。図書館で調べものしたいのでもう少し遅くなるかもしれません」 「……」 「もう、どうしたら納得してくれるんですか」

香り(遙か2/泰継)

同じシャンプーなのに違う香りになるのはなぜだろう。指の間をすり抜ける滑らかな髪。甘い香りが鼻腔をくすぐる。

朝を迎える魂魄(遙か2/泰継)

人は夜、眠って心身を休めるのだと言う。休めるべき心を持たず、三月の間眠らない身体は、この都の空白を持て余す。

雨と櫛(遙か2/泉水)

「そうだ、ねえ紫姫、これ見て!」 「まあ、素敵な櫛ですね」 ある雨の夜。南方に遠出することになっていた花梨と泉水は、方違えのために紫姫の館で一晩を過ごすこととなった。

天海

「ドキドキしすぎて死んじゃうんじゃないかと思った」と言ったら、天海は大真面目な顔で「止めは私にささせてくれますか」と言った。その表情と、同時に与えられた深い口づけの性急さに驚いて、思わず答えに詰まる。「とどめって」「私という存在は、君を死…

「美術館に行きたい」。玄関を出てすぐに、ゆきが突然そんなことを言い出した。出かける直前に読んでいた雑誌に、誰だか有名な画家の展覧会の記事があったらしい。「冬服買いに行く約束だろ?」「うん、でもとても綺麗だったから、都と観に行きたい」そう言…

高杉

後ろから抱きしめたその腕が首にまわってきて、濡れた髪を耳にかけられた。指はそのまま頬をすべり、唇をかすめて首筋へ戻る。「いま身体が震えたな。何をされるのかと身構えているのか」「だって」「愛してる、とはもう言い飽きてしまったな」高杉さんの無…

アーネスト

紅茶のカップを手にした彼女が、湯気越しに部屋を見回している。「いろんなものが飾ってある……骨董品?」「ええ、私とパークスさんの好みで。新品よりも味があるでしょう。記憶が染み込んでいるようで」人の記憶。時の記憶。彼女と二人で過ごすこの時間も、…

桜智

濡れた舌が上下の唇をつうと撫でていく。おずおずと口を開くと、桜智さんはうっとりと溶けた瞳で、ほうと溜め息をついた。顎の周りにその熱い呼気を感じる。くちづけをしてもいいかい、なんて聞くのは恥ずかしいからやめてほしいけれど、照れ隠しでも「やめ…

帯刀

向かい風を受けて、濃紺の衣の裾がはためく。君は大きく乱れた前髪に手をやりながら後ろを振り返り、「このくらい風があるほうが気持ちいいですね」と言った。己に向けられる心無い刃をひらりかわして、龍神の御使いは世界を紡ぐ。「私には羽根がないから、…

総司

徐々に輪郭を曖昧にしてゆくあなたのいたあの日々は、時を経るごとにより鮮やかに染められていく。初めての望みを手放すことが断罪だというのなら、贖罪には軽すぎる。纏まっては霧散する思考の中で響くのは彼女の声。時間と時空を隔てて響くあの音はきっと…

チナミ

枝豆をつまみながら、チナミくんがクイズ番組に文句をつけている。「書き順が滅茶苦茶じゃないか。ただ形になればいいというものではないだろう」とブツブツ言う彼に、これはバラエティ番組だから、とは言わないでおく。テレビに見入る彼のグラスに、少しぬ…

龍馬

お嬢に先に乗車するように促して、運転席の後ろにその泣き顔を隠した。行き先を述べてドアが閉められたタクシーの車内は暗い。窓の向こうから街灯の光がぼんやりと差し込み、俯いたお嬢の横顔をかたどっている。涙をたたえたその顔は不思議と艶めかしく見え…

薄いゴムを一枚隔てた指先で歯列をなぞる。「歯に異常は見られませんし、やはり急性の副鼻腔炎でしょう」。まずは風邪を治すことが先決だと伝えると、彼女は酷い鼻声のまま、わかった、と答えた。呼吸も満足にできずに苦しげに瞳を潤ませたようすは、何か純…

ナーサティヤ

透き通った水面を森の風が撫でていく。いとけなきその表情はいつかの泣き顔と重なって、彼女と対峙するときにはいつもこの感情が呼び起こされるのだと思った。「泣くな」ごめん、と呟く震える声は、私の胸に滑り込んで染み込んでゆく。腕の中に抱いた温もり…

忍人

雨は夜空に降り続いている。外套の露を払う横顔には濡れた髪が張り付き、私はその先から伝い落ちる雫を見ている。「足往が火を熾してくれましたから」「ああ」と言って、忍人さんはこちらを見やった。「すぐに戻る」。愛してるなんて言葉は必要なくて、ただ…