ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

遙かなる時空の中で3

景時

懐かしい音がすると思って部屋を覗くと、景時さんがおもちゃのピアノをいじっていた。「譲くんにお願いして動くようにしてもらったんだよ。電池っていうのは凄いね」どういう仕組みなんだろう、と言いながら、景時さんは小さな鍵盤を指先で弾く。無愛想な電…

先輩の横顔が逆光で切り絵のように浮かび上がる。「どうしたの?早くしないと暗くなっちゃうよ」陰り始めた陽が、無防備に揺れる長い髪を照らす。「すみません、今行きます」こうして想いを切り取って、切り取って、切り取るその瞬間が永遠の至福なんです。…

ヒノエ

メール、というのは便利なようで厄介だ。火急の用を一方的に伝えるにはいいが、相互のやりとりが生じるまでに時間を要する。「全く、俺はいつからこんなに気の短い男になったんだろうね」お前が遠い。ここは遙か離れたあの世界よりも何もかもが速くて近いの…

逆鱗(遙か3/望美)

何かを思案するとき、つい胸元に下げた逆鱗を触る癖がついた。 触れたからどうこうということはないが、ただ自分が白龍の逆鱗を所持していること、それによって時空の遡りが可能であること、またそれによって運命を任意に書き換えられること、それらを改めて…

清盛

あの夜の月はどんな輝きを放っていただろうか。見上げた空は黄昏色、その向こうから顕れるべき光を想う。両手の中に総てがあると信じることは容易く、しかしその幻影を喪うこともまた同じく容易い。どこからか迷い込んだ揚羽蝶は宙に伸ばした私の手をひらり…

知盛

忘れられない絵本がある。主人公は真っ黒い身なりの男性で、物語は彼が海に身を投げる場面で終わる。見たいものだけ見て、それで自分だけ退場だなんて結末は、とても意地悪だと思った。だから私は、大海に飛び込む彼の腕を掴んで引き上げるのだ。彼の喪服が…

リズヴァーン

コンピューターの使い方が分からない。望美に聞こうかと思ったが、こちらの世界に来てから頼ってばかりだ。私は彼女に何をしてやれただろう。そう考えたら、助けを求めたい気持ちは萎んだ。楽な方に流れるのは簡単だ。まずは自分で問題と向き合わなければな…

敦盛

「あいつは一度決めたら頑固なんだ。子供のときからそうなんだよ」そう語る将臣殿は笑っていたが、その表情には隠しきれない陰があった。僅かな傷でも、放っておけばきっといつか膿んでいく。それはただひとつの棘だ。叶わない夢と知りつつ、幼い自分が彼女…

弁慶

パーカーを買った。「弁慶さんの外套に似た服がありますよ」と言ったのは半ば冗談だったのだけれど、「本当ですね、着心地が良さそうです」なんて言われてしまったら引くに引けなかった。フードを被って「似合いますか」とおどける弁慶さんは、あの異世界で…

九郎

十一月を迎えた砂浜は物悲しく、潮の香りを孕んだ風が前髪をかきあげていく。名を呼ぶ声が震えているように聞こえて顔を見れば、はらはらと涙を零している。訳を問うより先にお前は言う。「お誕生日おめでとうございます、九郎さん」お前は時折、俺の瞳の向…

将臣

何もかも自分で納得して動いてしまうから、その背をこの磨り減った靴底で蹴飛ばしてやりたい。遼遠の旅路を経て巡り会ったこの場所はあまりに残酷で、私もまた自分の残酷さを思い知らされる。頑固なところが似てるだなんてよく言ったものだ。その似たところ…

望美

その浴室からはあの観覧車が見えた。磨り硝子の向こうから漏れ聞こえる歌はあの頃MDに入れていた曲によく似ていて、ふと何も知らぬ頃に思いを馳せる。長い旅路は永劫回帰の円環だ。陰陽の全てはぐるりぐるりと巡り巡って、やがて龍脈に還るのだろう。私も…