ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

遙かなる時空の中で4

那岐

誕生日に千尋が財布をくれた。ちょっと奮発したんだから、と言う顔はどこか得意げだった。「だから大事にしてね」。大事なもの。大切なもの。この手をすり抜けていってしまうものたち。千尋は僕の両手に財布を握らせて、失くしたりしないでね、約束だよ、と…

ナーサティヤ

透き通った水面を森の風が撫でていく。いとけなきその表情はいつかの泣き顔と重なって、彼女と対峙するときにはいつもこの感情が呼び起こされるのだと思った。「泣くな」ごめん、と呟く震える声は、私の胸に滑り込んで染み込んでゆく。腕の中に抱いた温もり…

忍人

雨は夜空に降り続いている。外套の露を払う横顔には濡れた髪が張り付き、私はその先から伝い落ちる雫を見ている。「足往が火を熾してくれましたから」「ああ」と言って、忍人さんはこちらを見やった。「すぐに戻る」。愛してるなんて言葉は必要なくて、ただ…

遠夜

つむじに息がかかってくすぐったい。髪につけた香油が気にくわないらしい遠夜は、手首のにおいを嗅ぎ、耳の後ろのにおいを嗅ぎ、最終的に私の髪に鼻をうずめた。この状況はなんだろう。「ねえ遠夜、もういいでしょ?」「千尋のにおい…俺の中に、たくさん溜め…

時折背後から衣擦れの音が聞こえる。竹簡を紐解く私の後ろで確かな存在感を持っているのは、いつでも私を追いかけてくる我が君だ。「柊、仕事は終わった?」あの音はきっと、私をここに留めるささやかな束縛。「はい、まもなく」私は振り向いて彼女に微笑み…

サザキ

いきなり首筋に噛みつかれて、驚きより先に疑問が出る。「突然どうしたの?」「いやあんまり別嬪さんなもんで、人形みたいだと思ったんだ。ちゃんと血が流れてるか確かめたくなった」「なにそれ」スマンスマンと笑い、サザキは婚礼衣装を纏った私を大きな翼…

アシュヴィン

腿を滑る褐色の手に、体が跳ねる。「怖いか」「あなたを恐れたりしないわ」毅然と言い放つつもりだった台詞は、きっと震えて聞こえただろう。私の言葉は半分本当で、半分嘘だった。顕わにされた素肌に触れる生温かい感触がもどかしい。なにか。何か奥のほう…

風早

風早が突然首に両腕を回してきたので、私は思わず固まった。「はい、いいですよ」という声を合図にネックレスに目をやると、モチーフの裏表が先ほどとは逆になっている。風早は「こっちが表なんですよ、分かりにくいですけど」と言って笑った。それくらい自…