ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

勝真

勝真さんがこちらの世界に来てから、もう随分経つ。洋服にもすっかり馴染み、慣れた様子で街を歩く姿に京識の面影は見当たらない。勝真さんは何を着ても似合うからずるい、と言ったら、毎日違う服で現れるお前を見る俺の気持ちがやっと分かったか、なんて言うから、この人は本当にずるい。


「勝真さんって案外優しいところあるから」。そんな言葉が漏れ聞こえた。確かに俺は、誰かみたいに温和そうな見た目ではない。しかしそれを言うならお前だって、あのぼんやりした格好の中身があんなに頑固だなんて想像がつかないだろう。俺も「案外」の毒にあてられたな、とひとりごちた。


台所に立つ私の腰に背後から腕が回された。危なくないのを確認してこうしてくるのはいつものこと。しばらくしても離してくれそうにないので、諦めて抱きすくめられるのもいつものこと。勝真さんの指先が左手の薬指の付け根をなぞる。指輪を外してもそこに感じる彼の印は、まるで刺青のようだ。


青く輝く宝玉を包み込む、あの刺青のような模様が好きだった。コートを着込んだ勝真さんに「寒がりになりましたね」と言ったら、「だからこうするんだろう」と肩を強く引き寄せられた。くっついて歩いても人目を引かない繁華街には罠が多い。ちらつく雪は、肩を抱く力強い腕で融けた。


外に出た途端、花梨は「ひゃあ」とおかしな声をあげた。「さすがに冷えますね」と言うくぐもった声は、ぐるぐる巻きのマフラーの中から発せられている。首をすっかりちぢこめて、まるで亀のようだ。「風邪引かないうちにさっさと行くぞ」と言って手を差し出す。こんな仕草も板に付いてきた。


紫姫に持たされた水を口に含んで、花梨はぷはぁと息をついた。「山道はハードですね」と語るうなじには、うっすら汗が浮かんでいる。衣の紐を解いて前をはだけた姿を唖然と見ていると、「やっぱりお行儀悪いですよね?深苑くんには内緒ですよ」などと言って笑った。全く、人の気も知らないで。


浮腫んだ脚をさすりながら、花梨は「京の人たちの脚力すごいですね」と笑った。よく動いた翌日に体が痛くなることを、向こうの世界では「筋肉痛」と言うらしい。脚ムキムキになっちゃいそうだな、やだな、と呟く横顔に、思わず吹き出す。「明日は俺の馬に乗せてやろうか」


待ち合わせを目撃された翌日は大変だった。あの人は誰なのか。いつどこで知り合ったのか。質問責めでてんてこ舞いになり、うっかりダブルデートの約束を取り付けてしまった。「好きな奴と一緒にいることに、何を恥じることがあるんだ」まじめな顔でそんな風に言うから恥ずかしいのに。


「今度お前の家族に挨拶させてもらえないか」唐突に差し込まれた話題に、口に運ぶ寸前だったケーキを皿に戻す。「それって……」呆然と開いた口に、いつの間にか取られたケーキフォークが差し込まれる。「ご両親が好みそうな服、選んでくれよ」食べさせてくれたケーキは、人生で一番甘かった。


「ピアス開けようかな」イサトくんがしてたようなやつ、と答えると、勝真さんは一言「やめとけ」と呟いた。その微妙な表情を見て、嫉妬ですか、なんてひねくれた言い方を寸前で飲み込む。「宝玉みたいなピアスをつければ、いつも一緒にいられるかと思って」蒼いあの輝きを、身にまとえたなら。


「今日のはどうですか?」初めは怪訝な顔で啜っていたコーヒー。何度か飲むうちに慣れたらしく、今では食後の習慣になった。「この豆は酸味が強いな」真剣に香りを嗅いだり、口の中で転がして味を見たりする。どこかおどけて見えるその顔が好きだなんて、本人に言えばきっと怒るのだろうけど。