ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

イサト

外に出た途端、花梨は「ひゃあ」と情けない声をあげた。「さすがに冷えるね」「これだけ積もったからな。ほら、ちゃんと前閉めないから寒いんだよ」と言って、花梨のコートの首もとの釦を留めてやる。色違いの手袋を履いた手を繋いで歩く白銀の道は、なんだか眩しかった。


空になったコーヒーカップを弄びながら、ここは幸せだな、と呟く。 人の手で様々な草木が植えられたここは、植物園と言うらしい。母親に手を引かれた子供が、一生懸命に何か指さしているのが見える。「幸せに場所は関係ないよ」。笑う顔を見て思う。花なんて、集めてこなくてもここにある。


すっかり見慣れてしまったが、冷静に考えれば奇妙な格好だ。水干に似た衣の下の、すかあととかいう布が奇妙だ。あんなに脚を出した格好がそもそも非常に奇妙だ。すかあとがなよなよと頼りなげに揺れて、花梨の脚にちらちらと影を作る。女の内腿があんなに白いことを初めて知った。


帰りたい、と言って花梨は泣いた。誰を責めるでもなく、ただ一言、「帰りたい」、と言って泣いた。音もなくこぼれる涙に無性に胸が詰まって、俺まで泣きたくなってくる。「帰りたいよな」。当然だ。花梨の過去を俺は知らない。けれど、あたたかな場所に帰りたい気持ちは痛いほど知っている。


鏡を覗き込んで、ああでもないこうでもないと髪をいじり始めてどれくらい経ったか。「ほら、もう行くぞ」「も、もうちょっとなの……!」花梨は家の中で一番明るい場所を知っていて、いつでもちょっとした陽だまりを探し当てる。陽の光を受けて美しく輝く髪も肌も、本人には見えないらしい。