ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

翡翠

「神子殿は案外頑固だからね」。それって褒めてるんだろうか。そう言うときの翡翠さんはいつも笑顔で、だから非難されている気はしない。それとなく本人に聞いてみたら、「私は誰の思惑通りにもならない海を愛する男だからね」とはぐらかされた。思惑通りにならないのはどちらだろう。


背中を爪でつうとなぞりあげてみた。やめてください、とむくれる君に、菓子か悪戯かなど選べやしないのだよ、と答える。欲しいものは私の力で全て手に入れるよ。姿勢が元に戻ったのを見計らい、今度は華奢な肩をなぞってみる。上げる声がどんなに艶めいているか、白菊は知らないようだけれど。


小さな果実を投げ渡して「皮ごと食べてごらん」と声をかけると、白菊は素直にそれに唇を寄せた。かぶりついた場所からじわりと滲み出た甘い露が、ささやかな爪を濡らし、たおやかな指を伝う。その姿にいつしか見惚れていた自分に気づき、私は苦笑した。私は一体どうしてしまったのだろう。


例えばこの手首に手錠をかけて電車なんかに乗れたなら、どれだけ心休まるだろうか、などと考える。姫君はいつも好奇心旺盛で、ともすると隣にいる男のことなど忘れてしまいそうだ。また駆け出そうとする花梨の手を強く引き、掌でその唇を塞いだ。「少しは大人しくしてくれまいか」


氷輪は夜空を穿ち、蒼白い光で水面を照らす。つい先ほどまであんなにはしゃいでいたというのに、静かになったかと思えばこの寝顔だ。時たま穏やかな風に揺れる舟は、姫君の揺りかごになってしまった。「ねえ、花梨」失いたくない、なんて言い掛けた言葉は、まるでもう手に入れたかのようで。


実を言えば、少女の前で酒を嗜んだことなどなかった。渡した器に注がれているのは、水菓子を絞って濾しただけのものだ。小さな唇を拭う桜貝の指先。「お酒って甘いんですね」と語る頬が、僅かに上気して見える。けれどもむしろ、酔っているのも、上気しているのも、「――私かもしれないな」