ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

ヒノエ

メール、というのは便利なようで厄介だ。火急の用を一方的に伝えるにはいいが、相互のやりとりが生じるまでに時間を要する。「全く、俺はいつからこんなに気の短い男になったんだろうね」お前が遠い。ここは遙か離れたあの世界よりも何もかもが速くて近いのに、お前だけがずっと遠いんだ。


「平日は忙しいって言ってるのに」「それは俺への非難かい?」 下校の道すがら返信を打っていたら、どこで待ち伏せしていたのか、メールの送り主が目の前に現れた。 「それとも言い訳かな」 すぐに返事ができなかった日はいつもこう。ヒノエくんは私の腰に両腕を回す。「おかえり、姫君」


浴室から出ると「今タクシー呼んだよ」と声をかけられた。十月の秋雨は体を芯から冷やす。着替えた方がいい、と言ってこんな深夜に部屋に連れ込まれ、覚悟を決めた矢先の台詞だった。「姫君を無事に鳥籠に戻すまでが逢い引きというものさ」。そう言って差し出されたココアは少し苦かった。


「望美の髪飾り、とても素敵だわ。悔しいけれど見る目があるのね」「そりゃあどうも」この女たらしの贈り物だという花の飾りは、望美の雰囲気によく似合っていた。「でもね、残念ながら見る目はそれほどでもない」と言って、ヒノエ殿は複雑そうに笑った。「あの髪を結ったのは譲だからね」


彼のことだからすぐに気付くだろうと踏んではいたけれど、こんなにまじまじ鑑賞されるとは思わなかった。疎かだった保湿を後悔し始めたところで、長い指が掌を包む。「計画変更。その爪に似合う店に行こう」そう言って自然に手を引く姿に似合う私でありたくて、私はきっと背伸びをし続ける。