ルシファー

目覚めて一番に感じるのは喪失感。もう幾度繰り返したか数えるのも辞めた夢の中、きつく抱いた小さな身体。――あのすべらかな白い背にも、こんな翼が生えたなら。暴いてはならない欲望は書斎の暗闇に、抱いてはならない願望はこの黒い翼に、夢の中で得た偽りの温もりは窮屈な手袋に隠して。

「お前、本当はサキュバスなんじゃないのか」「人間でも魔術師でもなく？」まだ息の荒いその唇にかかった髪を一束すくって、耳にかける。気怠げにこちらを見下ろす瞳は、月の光を受けて時折妖しげな深い色に揺らめいていた。「もしそうなら、もっとずっと昔から、こうして誘惑できたのに」

「ルシファーって、私に命令されるの嫌いじゃないよね」「そうだな」からかったつもりが即答されて、飲んでいたコーヒーでむせる。「なんだ」「いや……」偉そうな否定か適当な誤魔化しが返ってくると思っていたのに、そんな風に満足げな微笑みで言われたら。「……キスのおねだり、してよ」