ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

遙かなる時空の中で2

泰継

不愉快だ。湿った土を踏む爪先に重苦しい気が絡む。この山を浄めたのは数日前のことだが、早くも穢れが生じている。不愉快だ。ふと木立を見上げ、己の憤りの元は何かと考える。…よく分からない。神子は今日、私以外の八葉を供につけると言った。その後に生じ…

勝真

勝真さんがこちらの世界に来てから、もう随分経つ。洋服にもすっかり馴染み、慣れた様子で街を歩く姿に京識の面影は見当たらない。勝真さんは何を着ても似合うからずるい、と言ったら、毎日違う服で現れるお前を見る俺の気持ちがやっと分かったか、なんて言…

イサト

外に出た途端、花梨は「ひゃあ」と情けない声をあげた。「さすがに冷えるね」「これだけ積もったからな。ほら、ちゃんと前閉めないから寒いんだよ」と言って、花梨のコートの首もとの釦を留めてやる。色違いの手袋を履いた手を繋いで歩く白銀の道は、なんだ…

めぐる日々(遙か2/泰継)

「今日は何時に帰ってくる?」 「十八時頃ですかねえ。図書館で調べものしたいのでもう少し遅くなるかもしれません」 「……」 「もう、どうしたら納得してくれるんですか」

香り(遙か2/泰継)

同じシャンプーなのに違う香りになるのはなぜだろう。指の間をすり抜ける滑らかな髪。甘い香りが鼻腔をくすぐる。

朝を迎える魂魄(遙か2/泰継)

人は夜、眠って心身を休めるのだと言う。休めるべき心を持たず、三月の間眠らない身体は、この都の空白を持て余す。

雨と櫛(遙か2/泉水)

「そうだ、ねえ紫姫、これ見て!」 「まあ、素敵な櫛ですね」 ある雨の夜。南方に遠出することになっていた花梨と泉水は、方違えのために紫姫の館で一晩を過ごすこととなった。

神子様は今日もへとへとになって戻られた。八葉らしきお方を見かけはしたものの、話しかけることは叶わなかったのだと言う。(兄様はああおっしゃるけれど、神子様ならきっと)龍の宝玉がああして散ったこと、それこそが絆がここにある証。(どうぞ、わたく…

千歳

憧れ」といえば聞こえがいいけれど、これは嫉妬の蕾だ。小さき蕾がいつか咲きこぼれそうな恐ろしさを胸にかかえて歩く透廊は、つま先を芯から冷やしてゆく。あの子になりたい。あの子になりたい。あの子になりたい。あの子の場所が欲しい。私を喰らうあの龍…

アクラム

「泣きたいならば泣くがよい」と言う声は、どこか嘲りを含んでいる。「泣きたいわけじゃないの」「では瞳に溜まるそれは何だというのだ」袍の肩先に描かれた紅葉の赤色が視界の中で滲んで揺れる。「ねえ、あなたの名前を教えて」 私を見下ろす彼は、なぜだか…

泉水

アスファルトに伸びた影を見て、「泉水さんのほうが女の子みたい」と彼女は眉尻を下げた。男性は髪を短くするこの世界では、長い髪を括った姿は女性のように見えるのだろう。「ではこういたしましょう」。彼女の手を取って、私の腕に絡ませる。寄り添った影…

翡翠

「神子殿は案外頑固だからね」。それって褒めてるんだろうか。そう言うときの翡翠さんはいつも笑顔で、だから非難されている気はしない。それとなく本人に聞いてみたら、「私は誰の思惑通りにもならない海を愛する男だからね」とはぐらかされた。思惑通りに…

幸鷹

ほら見てください、と手を引かれて来てみると、そこには天に向かってすうと伸びる秋桜があった。彼女は初秋の風になびく髪を手で抑えながら、「私の背より高くなったんですよ」と言って嬉しそうに笑う。透き通るように白い花の陰に彼女を隠して、その前髪に…

彰紋

チョコレート、というお菓子を食べたら、こんな気持ちになるのだろうか。舌の上でじわりと溶けて、口の中いっぱいに香りが広がるというそれは、なんて罪作りなのだろうと思った。あなたと握手して温もりに触れているそこから、僕がとろりと溶けてしまいそう…

頼忠

その後ろ姿が美しすぎて、私はしばし見とれた。秋風に揺れる衣の裾。小さな歩幅で懸命に歩く脚。少しだけ振り返って「今日は風が強いですね」と語る唇。「頼忠さん、どうかしました?」と首を傾げれば、少し伸びた前髪が額でさらりと揺れる。はらはらと舞う…

花梨

吾輩は神子である。力はまだ無い。 どこに八葉がいるのかとんと見当がつかぬ。何でも暗闇の中で玉が輝く夢だけは記憶している。吾輩はここで始めて鬼というものを見た。 しかもあとで聞くとそれは一族の中で一番力を持つ首領であったそうだ。この鬼というの…