ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

遙かなる時空の中で5

天海

「ドキドキしすぎて死んじゃうんじゃないかと思った」と言ったら、天海は大真面目な顔で「止めは私にささせてくれますか」と言った。その表情と、同時に与えられた深い口づけの性急さに驚いて、思わず答えに詰まる。「とどめって」「私という存在は、君を死…

「美術館に行きたい」。玄関を出てすぐに、ゆきが突然そんなことを言い出した。出かける直前に読んでいた雑誌に、誰だか有名な画家の展覧会の記事があったらしい。「冬服買いに行く約束だろ?」「うん、でもとても綺麗だったから、都と観に行きたい」そう言…

高杉

後ろから抱きしめたその腕が首にまわってきて、濡れた髪を耳にかけられた。指はそのまま頬をすべり、唇をかすめて首筋へ戻る。「いま身体が震えたな。何をされるのかと身構えているのか」「だって」「愛してる、とはもう言い飽きてしまったな」高杉さんの無…

アーネスト

紅茶のカップを手にした彼女が、湯気越しに部屋を見回している。「いろんなものが飾ってある……骨董品?」「ええ、私とパークスさんの好みで。新品よりも味があるでしょう。記憶が染み込んでいるようで」人の記憶。時の記憶。彼女と二人で過ごすこの時間も、…

桜智

濡れた舌が上下の唇をつうと撫でていく。おずおずと口を開くと、桜智さんはうっとりと溶けた瞳で、ほうと溜め息をついた。顎の周りにその熱い呼気を感じる。くちづけをしてもいいかい、なんて聞くのは恥ずかしいからやめてほしいけれど、照れ隠しでも「やめ…

帯刀

向かい風を受けて、濃紺の衣の裾がはためく。君は大きく乱れた前髪に手をやりながら後ろを振り返り、「このくらい風があるほうが気持ちいいですね」と言った。己に向けられる心無い刃をひらりかわして、龍神の御使いは世界を紡ぐ。「私には羽根がないから、…

総司

徐々に輪郭を曖昧にしてゆくあなたのいたあの日々は、時を経るごとにより鮮やかに染められていく。初めての望みを手放すことが断罪だというのなら、贖罪には軽すぎる。纏まっては霧散する思考の中で響くのは彼女の声。時間と時空を隔てて響くあの音はきっと…

チナミ

枝豆をつまみながら、チナミくんがクイズ番組に文句をつけている。「書き順が滅茶苦茶じゃないか。ただ形になればいいというものではないだろう」とブツブツ言う彼に、これはバラエティ番組だから、とは言わないでおく。テレビに見入る彼のグラスに、少しぬ…

龍馬

お嬢に先に乗車するように促して、運転席の後ろにその泣き顔を隠した。行き先を述べてドアが閉められたタクシーの車内は暗い。窓の向こうから街灯の光がぼんやりと差し込み、俯いたお嬢の横顔をかたどっている。涙をたたえたその顔は不思議と艶めかしく見え…

薄いゴムを一枚隔てた指先で歯列をなぞる。「歯に異常は見られませんし、やはり急性の副鼻腔炎でしょう」。まずは風邪を治すことが先決だと伝えると、彼女は酷い鼻声のまま、わかった、と答えた。呼吸も満足にできずに苦しげに瞳を潤ませたようすは、何か純…