ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

遙かなる時空の中で

天真

嗅ぎ慣れない匂いが鼻をくすぐった。俺が怪訝そうにしていると、貰った香水使うの忘れてたの、と「牛乳買い忘れた」みたいなノリで軽く言ってのけた。いつ、誰から、なぜ受け取ったんだ。人の感情に敏感なくせに、自分は気まぐれにその心の色をころころと変…

あかね

船岡山に登ると、視界が空と都になる。「京」と呼ばれるこの場所は、ここから見渡せる分しかない。その小さな世界に、確かに息づくものがあった。祈りはやがて深さを増して、告げる想いさえなくなってゆく。日々を生きるものたちへ、白き龍とその神子から、…

季史

「ごめんなさい」と囁く娘の声は震えており、私よりも先に消え入りそうであった。「めぐれ、天の声」そなたの名を呼び、そなたに名を呼ばれた。「響け、地の声」そなたと別れて目にする空は、いつも虹色だった。「かのものを」あかね。「封ぜよ」あかね、そ…

泰明

私は彼のどこが好きなのだろう。改めて聞かれると答えられない。素直なところ?頼りになるところ?どれもいまいちしっくりこない。ひとり首をかしげていたら、外出していた泰明さんが庵にひょっこりと顔を出した。その手には小さな花が一輪。ああ、こういう…

友雅

四神を手に入れてからこちら、幾日も霧雨が続いている。呪詛でせき止められていた雨が辻褄を合わせようとしているかのようだ。「こんなに大きな虹を見るの初めてです。京は空が広いんですね」君は「あの木が邪魔で虹がよく見えない」と言って、私の手を取り…

鷹通

季節はずれの気まぐれな雪が降った。ばたばたと冬物の準備をしていたら、あっという間に待ち合わせの刻限が迫ってきた。時計のないこの世界では五分や十分の遅刻はしようもないけれど、それでも鷹通さんを待たせるのは忍びない。それに、彼を待つあの時間が…

詩紋

またやっちゃった。また同じ間違いだ。いつもこうして間違ってばかりなのに、あなたは僕がどんなに情けなくても、僕が好きだと笑いかけてくれるね。自分にがっかりして俯いたとき、瞼に浮かぶのはあなたの笑顔で、聞こえるのはあなたの声なんだ。大丈夫だよ…

頼久

着慣れぬ衣に髢を揺らして去りゆく背中を見る。雲上はこれほどまでに暗く澱んでいるというのに、それでも踏み入ることは叶わない。いつ何時もお守りすると口にするのは容易いが、誠を尽くせぬ言の葉は紡げない。――神子殿。口の中で呟いた名は、喉を滑り落ち…