ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

天真

嗅ぎ慣れない匂いが鼻をくすぐった。俺が怪訝そうにしていると、貰った香水使うの忘れてたの、と「牛乳買い忘れた」みたいなノリで軽く言ってのけた。いつ、誰から、なぜ受け取ったんだ。人の感情に敏感なくせに、自分は気まぐれにその心の色をころころと変える。悪戯な香りに目眩がした。


森村天真は激怒した。必ず、かの頑迷固陋の男を一発ぶん殴らなければならぬと決意した。都では今日も曖昧な雨が降り続いていて、いっそ土砂降りになればよいと思った。震の卦は向かい風の中を進んでゆく。天真には女心が分からぬ。けれども大切な人の涙に対しては、人一倍に敏感であった。


その男の子はひどく泣きじゃくっていて、足元の水溜まりはまるで涙の海のようだった。扉の閉じたエレベーターの中で、泣き顔を浮かべた子供の頭をくしゃりと撫でる。「ほら、泣くな。その傘はお前の髪を濡らさないためにあるんじゃないだろ?」傘はな、大切なヤツに差し出すためにあるんだ。


「ピアスゥ?お前が?」天真くんは一瞬キョトンとしたあとひとしきり笑って、「似合わなさすぎ。ナシ」と結論づけた。「そんなに笑わなくても!」「お前はアレだ、イヤリングにしとけ」子供扱いしてる?と言い返そうとした瞬間に、強烈なパンチが飛んでくる。「お揃いで指輪も買ってやるよ」