唇が離れた瞬間、ごく小さな呻き声が漏れた。「…いま俺の魔力吸い取ったな？」と問う声は少しかすれている。「何もしてないけど…」――けど、いつもの余裕ぶったキスを、ぜんぶ壊してしまいたいと願ったのは確かで。「じゃあ返すから、もう一回」幾度も幾度も…

やっぱりジェルは人間界のサロンのほうが出来が良い。複雑な心境で爪を眺めていたら、伊吹が「アスモが監修すれば魔界のサロンも大人気になりそう」と呟いた。もしぼくがその指先を彩れるなら、オフする時にもまた温もりに触れられる。「…じゃあ伊吹はぼく専…

「……前の彼氏ともこんな風にしてたわけ？」嫉妬のにじむ瞳が至近距離で問う。「こうしたいのもされたいのも、レヴィだけだよ」一番聞きたいことには答えずに、わざと煽ってまた深い口づけをする。漏れる吐息にはどこか怒りも混じり始めていた。嫉妬して嫉妬…

そっと部屋を覗くと、ベールはすぐに身を起こした。「ごめん、寝てたよね」「大丈夫だ。緊急事態には起きられるようにしてる」そう囁いて微笑む腕の中に潜り込み、頬ずりをする。「次はきっと良い夢が見られる。美味い夢だといいな」胸から胸に優しい声が響…

目覚めて一番に感じるのは喪失感。もう幾度繰り返したか数えるのも辞めた夢の中、きつく抱いた小さな身体。――あのすべらかな白い背にも、こんな翼が生えたなら。暴いてはならない欲望は書斎の暗闇に、抱いてはならない願望はこの黒い翼に、夢の中で得た偽り…

書斎のドアをノックすると、返事より先に名前を呼ばれた。 「よく分かったね」 「どうせみんな酔いつぶれたんだろう」 「……よく分かったね」 「俺を誰だと思ってる」