ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

泰明

私は彼のどこが好きなのだろう。改めて聞かれると答えられない。素直なところ?頼りになるところ?どれもいまいちしっくりこない。ひとり首をかしげていたら、外出していた泰明さんが庵にひょっこりと顔を出した。その手には小さな花が一輪。ああ、こういうところかもしれない、と思った。


仕事を終えて、翳りはじめた帰路を急ぐ。都の賑やかさが遠のいていくごとに、髪を揺らす風がキリリと引き締まる木々の匂いに変わっていく。ふと足下に目をやると、道ばたに小さな薄紅の花が咲いていた。自分が花を愛でるようになるなど、生まれてこの方、考えもしなかったというのに。


物忌みの折り、神子がうたた寝をし始めた。好きに過ごして欲しいと文にあったので、私は幾ばくかの書物を持参した。神子も書物に目を通していたが、ほとんどの時間を睡魔との格闘に費やしていたようだった。 人に好きにしろと言っておきながら、なぜ神子は私に合わせた行動をとるのだろう。


風邪をひくといけないと衣を差し出した神子に、風邪などひかぬ、と言い掛けてやめる。人となったこの身が風邪をひくかどうか知らない。
「何を見てたんですか?」
「波紋を」
「波紋?」
雨粒がひとつ、またひとつと落ちて、小さな水面に幾重もの円を描く。大きく広がる強い波紋もあれば、すぐ後の雨粒にかき消される波紋もある。
「ずっと見てると不思議な気分になりますね」
目に映る世界に、自分の感情を重ねるようになった。波紋と波紋が重なって、複雑な波になる。鼻の頭に水滴をつけて屈託なく笑う、この少女の波紋が私を飲み込んでいく。