ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

アクラム

「泣きたいならば泣くがよい」と言う声は、どこか嘲りを含んでいる。「泣きたいわけじゃないの」「では瞳に溜まるそれは何だというのだ」袍の肩先に描かれた紅葉の赤色が視界の中で滲んで揺れる。「ねえ、あなたの名前を教えて」 私を見下ろす彼は、なぜだか私よりも泣きそうな顔に見えた。


玉響の逢瀬はいつのことだっただろう。時も場所も判然としない。多くは太陰に照らされていたように思う。しかしそれも朧な幻であるようにも思われる。そも、あの娘の名は何と言ったか。光か。陰か。希望か。絶望か。杳として知れぬ。何も判らぬ。愚かさを愛おしんだのは誰だっただろう。


うららかな午後に風が吹いて、木漏れ日の透かし模様が揺れた。長い金の髪は一筋の蜘蛛の糸のようにすらりと伸びて、どこか目に見えぬ誰かの元へ行こうとしている。「じゃあ切るね」。手にした刃を持ち上げたその毛先に当てる。はらはらと宙を舞い、陽を浴びて輝くのは蜘蛛の糸の散華。


薄闇の微睡みに、暁霧の懐抱に、ふと吐息が呼ぶことば。植物の名か、色の名か、それはきっと人の名で、きっとかつて龍に選ばれた者の名だ。その娘は、一体どんな光を湛えていたのだろう。意識を手放した先で私に縋るこの温もりは、どこか遠い時空で亡くした温もりを探している。