ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

泉水

アスファルトに伸びた影を見て、「泉水さんのほうが女の子みたい」と彼女は眉尻を下げた。男性は髪を短くするこの世界では、長い髪を括った姿は女性のように見えるのだろう。「ではこういたしましょう」。彼女の手を取って、私の腕に絡ませる。寄り添った影の頬が、紅く色づいたように見えた。


泣いているのですか。悲しいのですね。心はよく水に例えられます。川のように移ろい流れゆく心、泉の水面のように揺らぐ心、湖のように泰然自若とした心。どれも人の心、あなたの心です。悲しいときは泣いてもよいのです。どうか隠さないで。ここにきて泣きませんか。


「みこ、」と私を呼ぶ余裕のない声に肌が粟立つ。頬に触れる指の熱さ。射抜くような瞳。けれど、耳元に流れ込む吐息をよく聞けばそれは謝罪の言葉で、くすぐったさに身をよじりながらも少しだけほっとした。譫言のように私の名を呼ぶ唇にそっと触れる。こんなときにまで謝らないで、泉水さん。


「どうやら神子殿は寝不足のようだ」という声で我に返る。慌てて詫びると、翡翠さんは「あまり人のために無理をするものではないよ」と悪戯に笑った。その言葉で、口移しされたあの甘さが舌に蘇り、熱を伴って体中に広がっていく。御衣懸けの羽衣が直視できないのは、昨夜の泉水さんのせい。


「あの、お嫌でしたか」と消え入るように囁く唇だけが闇に浮かんで見える。「何か神子の気に障ることをしてしまったのでしょうか」慈しみと惑いが綯い交ぜになった彼の優しさは強力な媚薬だ。掠めただけの口づけの余韻がいつまでも消えずに、私を支配していく。「ぜんぶ、泉水さんのせいです」