ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

幸鷹

ほら見てください、と手を引かれて来てみると、そこには天に向かってすうと伸びる秋桜があった。彼女は初秋の風になびく髪を手で抑えながら、「私の背より高くなったんですよ」と言って嬉しそうに笑う。透き通るように白い花の陰に彼女を隠して、その前髪に唇を寄せた。


電車。あの音は電車だ。夢と現の狭間で、遙かに置き忘れた記憶を見た。私は高架下で電車の音を聞いていた。彼女は外していた眼鏡を私に手渡して、居眠りなんて珍しい、と不思議そうに呟いた。月の下でぼんやりと光る頬に手を伸ばす。すべらかな肌、この温かさだけは、私の揺るがない真実だ。


異世界から着てきた装束を全て洗ったそうで、神子殿は珍しく狩衣をお召しになっていた。「足袋を用意してもらったんですけど、たまには裸足もいいかなって」大きめの袴から覗いた足の指が時折ぴょこぴょこと動いている。ちらりと顔を見せたくるぶしは、神子殿の唇のような桜色に色づいていた。


はらはら、はらはらと舞い落ちる。「……こんなことで泣かないって、決めてたんですけど」「雪でずいぶん濡れてしまったのですね」はらはら、はらはらと舞い落ちる。「お風邪を召されるといけませんから、邸へ戻りましょう」小さく頷くその頭の、濡れた髪に暖かな陽光が降り注ぎますように。