ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

信行

その慟哭を耳にして、ああ本当に「風」は吹いているのだと思った。震える両手は酷く血色が悪く、青白い爪がぼんやりと夕闇に浮かんでいる。「僕は、」先ほどから繰り返すのはこの言葉。「僕は、」先に続く音を探るような押し殺した声。「僕は、」「僕は、」あなたは、何を望むのですか。


「"好きになってしまうから"?」「……はい」珍しくおろした髪が邪魔をしていて、表情は見えない。口元を覆って僕を拒む小さな手に触れると、ちらりと覗いた赤い耳が震えた。――それはきっと、彼女を守るためのものだったのだろうが。「もうとっくに手後れなんじゃないか」

半兵衛

「そういえば蜻蛉丸はなぜ口移しを拒んだのですか」茶を吹き出しそうになって強かに咽せる。「蜻蛉丸、落ち着いて」「君が変なこと言うから」「半兵衛殿に憧れる女性も多いですし、その」自分には魅力がなかったのか。そう問いたいのだろうか。「……唇に触れたら、好きになってしまうでしょ」

秀吉

心地よいだるさの中で、二の腕に乗った頭がもぞもぞと動き出した。「オレあの一言で今日一日食わなくてもやってけそうだわ」「……朝餉はきちんと召し上がってください」窘める声も伝わる温もりも、それはひどく甘やかでオレをおかしくさせる。二度寝の試みは潰えて、赤い耳に唇を寄せた。


正直なところ、ゆうべ何を口走ったのかよく覚えていない。秀吉殿はずっとご機嫌で、早朝から精力的に政務に取り組むので佐吉が天気の心配をしている。「頭でも打たれたのではないでしょうか……」「いいじゃない。秀吉にはもっと頑張ってもらわないと。ね、姫?」……居たたまれない。

コハク

蠱惑の森で、洋菓子についていたリボンで戯れにコハクの髪を結ったことがあった。「そんなリボン、取ってあったの?」「だって梓さんからの贈り物だもの」あなたがくれたものは何ひとつ失くさないし、誰にも渡さないよ。そう言ってコハクはリボンを髪に結び、「似合う?」とおどけて見せた。

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イサト

外に出た途端、花梨は「ひゃあ」と情けない声をあげた。「さすがに冷えるね」「これだけ積もったからな。ほら、ちゃんと前閉めないから寒いんだよ」と言って、花梨のコートの首もとの釦を留めてやる。色違いの手袋を履いた手を繋いで歩く白銀の道は、なんだか眩しかった。

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