ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

景時

懐かしい音がすると思って部屋を覗くと、景時さんがおもちゃのピアノをいじっていた。「譲くんにお願いして動くようにしてもらったんだよ。電池っていうのは凄いね」どういう仕組みなんだろう、と言いながら、景時さんは小さな鍵盤を指先で弾く。無愛想な電子音が不思議と温かく感じられた。


蝶が飛んでいる。前を行く蝶を追うようにして改札を通り、尚もホームをひらひらと舞うその羽を眺めた。「わ、蝶がいますよ。電車に乗っちゃうなんて、大冒険ですね」なんて真剣な顔で言うから思わずおかしくなって、行き着く先がどこであっても、かの蝶が幸福であればいいと思った。


蝶が飛んでいる。前を行く蝶を追うようにして改札を通り、尚もホームをひらひらと舞うその羽を眺めた。在るべき場所を去って、何を求めてどこに行くのだろう。隣で蝶を眺める彼を横目で見やって、蝶と彼との運命に思いを馳せる。行き着く先がどこであっても、彼らが幸福であればいいと思った。


彼女と出会った日の朝もこんな天気だった。望美ちゃんとの出会いではなくて、もっと根源的な、「彼」と「彼女」に出会ったあの日。ぼうっと空を眺めていたら、どうかしましたか、と不思議そうに顔を覗かれた。なんでもないよ。次からは、こんな天気を「あのデートの日のような」と言えるから。


「景時さん、何かあったんですよね」月明かりの逆光で表情は伺えなかったが、確信を持った声だった。「やだな~!なんでもないってば」張り付けた笑顔で誤魔化して、その瞳から逃げる。裏切りに涙は似合わない。泣きたいならば、苦しみたいならば、月も太陽も照らさない場所に行かなければ。