ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

お姫様のボタン(ときレス/音羽慎之介)

寒いなあ。
外はからりと晴れて、秋の高い空が頭の上いっぱいに広がっている。
こんなに明るくて美しい青空なのに、どうしてこんなに寒いんだろう。

コートのポケットに両手をしまい込んで、肩を縮こめて大股気味に進む。
歩きながらぼおっと眺めていた前方の街路樹から、すっかり年季を帯びた葉がひらひらと頼りなげに落ちた。
寒いなあ。寒いなあ。
ひらひらしたくもなるよ。

すっかり通い慣れた道をくねくねと曲がって、暖かいあの場所に辿り着く。
「いらっしゃい!寒かったでしょう?」
寒かったよ。
ほら、早くドアを閉めなくちゃ。君まで凍えちゃうよ。

冷え切った両手をポケットから出して君の頬に当てる。
ひゃっ、と小さな声を出した君は、小さく「もう」、と呟いて、僕の手のひらに両手をかさねた。
そろそろ手袋しなくちゃだめだよ、と君が言う。
手袋、持ってないんだ。去年の暮れになくしちゃって。
「新しい手袋、君に選んでほしいな」
「じゃあこれから買いに行く?」
暖かい紅茶を注ぎながらそう言う君の背中に、それはいいね、と言おうとして、変わりに大きなくしゃみが出た。
「うーん……王子様はくしゃみしちゃいけないのかなぁ」
「またそんなこと言って……本当に冷えちゃったんだね。とりあえず暖まらないと、風邪ひいちゃう」

ほんのりとブランデーが香る紅茶がテーブルに置かれる。
これ、肩にかけたら暖かいんじゃない?と言って、君は近くに掛けてあったふわふわのルームウェアで僕の背中を覆った。
確かにあたたかい。それに、なんだか君のにおいがする。
「これ、着れないかな?」
「うーん、Lサイズだけど、さすがに小さくない?」
「うーん……あ、着れる。着れたよ。ちょっと袖が短いかなあ。でもあったかいね、もこもこだ」
「あはは。なんだかかわいい」
もこもこのフードを被せた僕の頭を、君がもこもこと撫でてくれる。

大きいから、前のボタンも留められそうだ。ここまできたら完璧に着こなしちゃおう。
そう思ってボタンに指が触れたとき、その位置が自分の服のそれとは逆であることに気がついた。
そうか、女の人の服ってボタンが左についてるんだ。
不思議な感じだな。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。かわいいボタンだなって」

――ねえ、外すごく寒いから、これ借りていってもいい?
この上からコート着られるから。
いい?
よかった、ありがとう。

外には相変わらずの綺麗な空が広がっている。
今度の手袋は、手首まである長いのがいいな。
コートの下に着たルームウェアの袖の足りない部分が少しだけスースーする。
でも、もうそれほど寒くなかった。