ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

遠夜

つむじに息がかかってくすぐったい。髪につけた香油が気にくわないらしい遠夜は、手首のにおいを嗅ぎ、耳の後ろのにおいを嗅ぎ、最終的に私の髪に鼻をうずめた。この状況はなんだろう。「ねえ遠夜、もういいでしょ?」「千尋のにおい…俺の中に、たくさん溜めておく」…この状況はなんだろう。


耳の後ろを洗うと必ず、ふ、と息をつくのに気付いたのは最近のことだ。器から水をすくって、柔らかな髪を洗いながら問いかける。「ここ、くすぐったい?」「くすぐったい…けど、気持ちいい。から、好きだ」そう言って、土蜘蛛は目を閉じたままへらりと笑った。静かな水音が森籠に溶けていく。


遠夜。己の存在を示すその言の葉が、いつしか不思議な質量を持って響くようになった。涼やかな声が大気を震わせて俺を呼ぶと、その瞳の輝きが暮れることのない陽となって注ぐ。暗いだけの夜は遠ざかり、希望を湛えた白夜の夢がそこに残る。万象が光を歓迎している。神子のいる森は明るい。