ツイノベとかのまとめ

twitterで投稿したツイノベをまとめています(@ukeiregaohayai)

2020-10-26から1日間の記事一覧

遠夜

つむじに息がかかってくすぐったい。髪につけた香油が気にくわないらしい遠夜は、手首のにおいを嗅ぎ、耳の後ろのにおいを嗅ぎ、最終的に私の髪に鼻をうずめた。この状況はなんだろう。「ねえ遠夜、もういいでしょ?」「千尋のにおい…俺の中に、たくさん溜め…

時折背後から衣擦れの音が聞こえる。竹簡を紐解く私の後ろで確かな存在感を持っているのは、いつでも私を追いかけてくる我が君だ。「柊、仕事は終わった?」あの音はきっと、私をここに留めるささやかな束縛。「はい、まもなく」私は振り向いて彼女に微笑み…

サザキ

いきなり首筋に噛みつかれて、驚きより先に疑問が出る。「突然どうしたの?」「いやあんまり別嬪さんなもんで、人形みたいだと思ったんだ。ちゃんと血が流れてるか確かめたくなった」「なにそれ」スマンスマンと笑い、サザキは婚礼衣装を纏った私を大きな翼…

アシュヴィン

腿を滑る褐色の手に、体が跳ねる。「怖いか」「あなたを恐れたりしないわ」毅然と言い放つつもりだった台詞は、きっと震えて聞こえただろう。私の言葉は半分本当で、半分嘘だった。顕わにされた素肌に触れる生温かい感触がもどかしい。なにか。何か奥のほう…

風早

風早が突然首に両腕を回してきたので、私は思わず固まった。「はい、いいですよ」という声を合図にネックレスに目をやると、モチーフの裏表が先ほどとは逆になっている。風早は「こっちが表なんですよ、分かりにくいですけど」と言って笑った。それくらい自…

清盛

あの夜の月はどんな輝きを放っていただろうか。見上げた空は黄昏色、その向こうから顕れるべき光を想う。両手の中に総てがあると信じることは容易く、しかしその幻影を喪うこともまた同じく容易い。どこからか迷い込んだ揚羽蝶は宙に伸ばした私の手をひらり…

知盛

忘れられない絵本がある。主人公は真っ黒い身なりの男性で、物語は彼が海に身を投げる場面で終わる。見たいものだけ見て、それで自分だけ退場だなんて結末は、とても意地悪だと思った。だから私は、大海に飛び込む彼の腕を掴んで引き上げるのだ。彼の喪服が…

リズヴァーン

コンピューターの使い方が分からない。望美に聞こうかと思ったが、こちらの世界に来てから頼ってばかりだ。私は彼女に何をしてやれただろう。そう考えたら、助けを求めたい気持ちは萎んだ。楽な方に流れるのは簡単だ。まずは自分で問題と向き合わなければな…

敦盛

「あいつは一度決めたら頑固なんだ。子供のときからそうなんだよ」そう語る将臣殿は笑っていたが、その表情には隠しきれない陰があった。僅かな傷でも、放っておけばきっといつか膿んでいく。それはただひとつの棘だ。叶わない夢と知りつつ、幼い自分が彼女…

弁慶

パーカーを買った。「弁慶さんの外套に似た服がありますよ」と言ったのは半ば冗談だったのだけれど、「本当ですね、着心地が良さそうです」なんて言われてしまったら引くに引けなかった。フードを被って「似合いますか」とおどける弁慶さんは、あの異世界で…

九郎

十一月を迎えた砂浜は物悲しく、潮の香りを孕んだ風が前髪をかきあげていく。名を呼ぶ声が震えているように聞こえて顔を見れば、はらはらと涙を零している。訳を問うより先にお前は言う。「お誕生日おめでとうございます、九郎さん」お前は時折、俺の瞳の向…

将臣

何もかも自分で納得して動いてしまうから、その背をこの磨り減った靴底で蹴飛ばしてやりたい。遼遠の旅路を経て巡り会ったこの場所はあまりに残酷で、私もまた自分の残酷さを思い知らされる。頑固なところが似てるだなんてよく言ったものだ。その似たところ…

望美

その浴室からはあの観覧車が見えた。磨り硝子の向こうから漏れ聞こえる歌はあの頃MDに入れていた曲によく似ていて、ふと何も知らぬ頃に思いを馳せる。長い旅路は永劫回帰の円環だ。陰陽の全てはぐるりぐるりと巡り巡って、やがて龍脈に還るのだろう。私も…

神子様は今日もへとへとになって戻られた。八葉らしきお方を見かけはしたものの、話しかけることは叶わなかったのだと言う。(兄様はああおっしゃるけれど、神子様ならきっと)龍の宝玉がああして散ったこと、それこそが絆がここにある証。(どうぞ、わたく…

千歳

憧れ」といえば聞こえがいいけれど、これは嫉妬の蕾だ。小さき蕾がいつか咲きこぼれそうな恐ろしさを胸にかかえて歩く透廊は、つま先を芯から冷やしてゆく。あの子になりたい。あの子になりたい。あの子になりたい。あの子の場所が欲しい。私を喰らうあの龍…

アクラム

「泣きたいならば泣くがよい」と言う声は、どこか嘲りを含んでいる。「泣きたいわけじゃないの」「では瞳に溜まるそれは何だというのだ」袍の肩先に描かれた紅葉の赤色が視界の中で滲んで揺れる。「ねえ、あなたの名前を教えて」 私を見下ろす彼は、なぜだか…

泉水

アスファルトに伸びた影を見て、「泉水さんのほうが女の子みたい」と彼女は眉尻を下げた。男性は髪を短くするこの世界では、長い髪を括った姿は女性のように見えるのだろう。「ではこういたしましょう」。彼女の手を取って、私の腕に絡ませる。寄り添った影…

翡翠

「神子殿は案外頑固だからね」。それって褒めてるんだろうか。そう言うときの翡翠さんはいつも笑顔で、だから非難されている気はしない。それとなく本人に聞いてみたら、「私は誰の思惑通りにもならない海を愛する男だからね」とはぐらかされた。思惑通りに…

幸鷹

ほら見てください、と手を引かれて来てみると、そこには天に向かってすうと伸びる秋桜があった。彼女は初秋の風になびく髪を手で抑えながら、「私の背より高くなったんですよ」と言って嬉しそうに笑う。透き通るように白い花の陰に彼女を隠して、その前髪に…

彰紋

チョコレート、というお菓子を食べたら、こんな気持ちになるのだろうか。舌の上でじわりと溶けて、口の中いっぱいに香りが広がるというそれは、なんて罪作りなのだろうと思った。あなたと握手して温もりに触れているそこから、僕がとろりと溶けてしまいそう…

頼忠

その後ろ姿が美しすぎて、私はしばし見とれた。秋風に揺れる衣の裾。小さな歩幅で懸命に歩く脚。少しだけ振り返って「今日は風が強いですね」と語る唇。「頼忠さん、どうかしました?」と首を傾げれば、少し伸びた前髪が額でさらりと揺れる。はらはらと舞う…

花梨

吾輩は神子である。力はまだ無い。 どこに八葉がいるのかとんと見当がつかぬ。何でも暗闇の中で玉が輝く夢だけは記憶している。吾輩はここで始めて鬼というものを見た。 しかもあとで聞くとそれは一族の中で一番力を持つ首領であったそうだ。この鬼というの…

季史

「ごめんなさい」と囁く娘の声は震えており、私よりも先に消え入りそうであった。「めぐれ、天の声」そなたの名を呼び、そなたに名を呼ばれた。「響け、地の声」そなたと別れて目にする空は、いつも虹色だった。「かのものを」あかね。「封ぜよ」あかね、そ…

泰明

私は彼のどこが好きなのだろう。改めて聞かれると答えられない。素直なところ?頼りになるところ?どれもいまいちしっくりこない。ひとり首をかしげていたら、外出していた泰明さんが庵にひょっこりと顔を出した。その手には小さな花が一輪。ああ、こういう…

友雅

四神を手に入れてからこちら、幾日も霧雨が続いている。呪詛でせき止められていた雨が辻褄を合わせようとしているかのようだ。「こんなに大きな虹を見るの初めてです。京は空が広いんですね」君は「あの木が邪魔で虹がよく見えない」と言って、私の手を取り…

鷹通

季節はずれの気まぐれな雪が降った。ばたばたと冬物の準備をしていたら、あっという間に待ち合わせの刻限が迫ってきた。時計のないこの世界では五分や十分の遅刻はしようもないけれど、それでも鷹通さんを待たせるのは忍びない。それに、彼を待つあの時間が…

詩紋

またやっちゃった。また同じ間違いだ。いつもこうして間違ってばかりなのに、あなたは僕がどんなに情けなくても、僕が好きだと笑いかけてくれるね。自分にがっかりして俯いたとき、瞼に浮かぶのはあなたの笑顔で、聞こえるのはあなたの声なんだ。大丈夫だよ…

頼久

着慣れぬ衣に髢を揺らして去りゆく背中を見る。雲上はこれほどまでに暗く澱んでいるというのに、それでも踏み入ることは叶わない。いつ何時もお守りすると口にするのは容易いが、誠を尽くせぬ言の葉は紡げない。――神子殿。口の中で呟いた名は、喉を滑り落ち…

お姫様のボタン(ときレス/音羽慎之介)

寒いなあ。 外はからりと晴れて、秋の高い空が頭の上いっぱいに広がっている。 こんなに明るくて美しい青空なのに、どうしてこんなに寒いんだろう。

修飾と距離感(ときレス/霧島司)

通算13枚目の付箋を本に貼り付けて、ふうと息をついた。 わずかに空いたこの時間で、大学の課題をすべて終わらせようとするのにはやはり無理があったらしい。 既に予定の時間の半分以上を費やしているのに、課題は四分の一程度しか進んでいない。 霧島司は焦…